IN REAL TIME / FAIRPORT CONVENTION
 わりと近年のライヴ・アルバムでして、メンバーは数年前の来日メンバーと同じ。初期のトラッドの雰囲気の曲もあるのだが、私の興味は元気なダンス・チェーン。サウンドの傾向としても、アイルランドのメロディが、サウンドの一部ではなく、大半を占めている。初期が好きな人には聴けないかも。FAIRPORTの代表曲(という話)"Meet On The Ledge"のスタジオ新録も収録。女性VoのSandy Dennyが不在ゆえに、これまた初期が好きな人には否定されるであろう。(純生)

 
THE HISTORY OF FAIRPORT CONVENTION / FAIRPORT CONVENTION
 アルバムの内容に入る前に、少し書きたいことがあります。まず炎の広告をB!で見た時にやばいと思ったのです。「ジェスロ・タルとトラッド」というタイトル・・・きっとこの中でFAIPORTも語られてしまうに違いない、と。で、THIN LIZZY絡みのことは書かれていなくて、ほっとしたのですが、それでもFAIRPORTのことはけっこう書かれていて、漠然と先を越されたような悔しい気持ちになりました。もちろん知っている人は大昔から知っているだろうし、聴いたのが早いとか遅いとかの問題ではなく、音楽をより楽しむことの方が大切なのは知っているけど。でも、ちぇって心境。しかし、ZEPの4枚目に女性VoのSandy Dennyが参加しているのは知らなかったことなので嬉しい。早速買いたいと思う。なぬ〜ZEPの4枚目って名盤じゃろ〜そんなもんも持ってなかったんかいな〜!と怒らないで下さい。
 そうSandy Dennyって前号で目にしませんでしたか? 私は炎を読む以前に、レコード屋でFAIPORTコーナーを物色していたのですが、そこにSandy Dennyなる人のソロ・アルバムが紛れ込んでいたのです。どうやらFAIRPORTのメンバーだったようですが、メンバー名までチェックしていなかったもんな。しかし、どこかで聞いたことある響きの名前です。・・・レコード屋を離れてから3分後に、Phil LynottがSandy Dennyなる人に捧げた"Tribute To Sundy"のことを思い出したのです。前号の特集では「誰それ?」とした曲です。それがわかった瞬間の鳥肌の立ちようといったら凄かった。ぞくぞくと興奮してしまったのです。
 Power Rock Todayの伊藤さんところに、FAIRPORTのライヴに行った感想文を送ったのです。当然、番組内で読んでもらうことが目的(不純;)。B!のコラムやラジオでも伊藤さんはFAIRPORTのことを言っていたので、少なからず興味はあるはずだと思って。送った翌週は読まれなくて、ちぇって思って。その翌週は期待していなかったんだけど、5時前の番組終了間際に、読まれたんさ! 驚いたよ! 曲はかけてくれなかったけど、「お〜行ったのかあ。おれもチケットは貰っていたんだけど、行けなかったんだよ〜」と言ってくれました。
 さて、アルバム・レポート。このアルバムは初期のベスト・アルバムです。'69年〜'72年発表の18曲が収録されています。"Black Rose"のようなダンス・チェーン(いわゆるHMではケルトと表現されているメロディ)はそんなに多くはありません。"Walk Awhile"はライヴのアンコールでやったFAIRPORTの代表曲の一つだろうか? "Matty Groves"は8分の大作で、前半はSandyが少しゆっくり目のケルトに乗って歌いあける。が、後半の3分以上のインスト・パートが圧巻。スピード・アップしての、ギターとフィドルの共演はまさに"Black Rose"のソロで表現しようとしたものではないだろうか? トラッドがこんなに速くていいのだろうか? 体全体を揺らして踊るよか、首を一心に振る方があってるかもしれない。
 ライヴを見るまではダンス・チェーンにのみ執心して、他の曲はかったるい退屈な曲として捉えていたのですが、ライヴ見て心境に変化あり。アンコール最後の曲"Meet On The Ledge"はアルバムの1曲目に収録されている。Sandyと男性Voがデュエットする、ごく普通のトラッドだが、今の私にはライヴでの光景がだぶって大感動なのだ。えらく気分が盛り上がる。
 もともとトラッドだった曲もあるが、各メンバーが曲も書いている。故人であるSandyもシンガー・ソング・ライターとして知られているようだ。バンド結成の'67年から'72年までのファミリー・ツリー付き。この間だけでも第7期にまで区分されている。メンバー・チェンジは激しく、他のグループとごちゃごちゃになっている。ま、これは想像なのですが、現在のHM界によくある音楽的意見の相違というお題目のケンカ別れというわけじゃなくて、お互い気軽にやって、別れて、また一緒にやって。そんな感じじゃないのかな? 現在のリーダー的存在の人が、ジェスロ・タルのメンバーと掛け持ちってのも、普通じゃ考えられないですもん。(純生)


LIVE IN PARIS AND TORONTO / LOREENA McKENNITT
 満を持してリリースされた2枚組ライブ。まず、選曲と曲順にちょっとびっくりしてしまう。1枚目の方は何と『THE BOOK OF SECRETS』の全曲を選曲していて、しかも曲順もアルバム通りそのまんまなのだ。実際の演奏がアルバムの完全再現だったとは思えないから、これは意図的に編集したものだろう。そして、2枚目の方は『THE VISIT』から6曲と、『THE MASK AND MIRROR』から3曲の計9曲(つまり、3rdまでは全くなし!)で、順番もアルバムの流れからそれほど離れてはいない。普段の私なら「ライブ盤はあったままをそのまま収録するのが鉄則なのに! 何でこんなにずたずたに切り刻むんだ!」と怒るところだが、今回に関してはいかにも学究肌で求道的で生真面目なロリーナらしくて逆に微笑ましくなってしまう。
 そして演奏の方も、そのロリーナの、音を世に発表して反応を問うということに対する真摯な執念が凝縮された実に濃い内容なのである。全8人のバンド・メンバーがそれぞれ丁寧にクリアーに音を出していて、それらが1つのアンサンブルになったときの重量感や圧迫感というのが、もうスタジオ・ヴァージョンの比ではないのだ。最初から最後までテンションは全く落ちることなく、じっと聴いていると、羽毛布団を10枚ぐらい重ねてその中に身を投げていくような感覚に陥る。その重厚な音で"The Highwayman"や"The Lady Of Shalott"など演奏された日には、もう平伏するしかない。ロリーナのヴォーカルも、このゴージャスな演奏の上に立って気品と誇りを全く失わない。やはりそれには、この細部にまでこだわった選曲や構成から受ける印象も大きいのだろう。今までは「編集の手が入ったライブ盤など、本番の熱気は全く伝えられない」と思っていたが、今後は考えを改めなければなるまい。紙ケースの装丁も上品で美しく、外も中身もまとめて見事な完成品である。
 思えば、'94年の『THE MASK AND MIRROR』は、それまで彼女がやっていた一般的な正統派トラッドの枠を突き抜けて、神の領域にまで達したかと思われた作品だった。そして、'97年の『THE BOOK OF SECRETS』は、また人間界へと戻ってきて、3rd、4th路線に近くなったという印象を持っていた。しかし、このライブ盤を聴いてから改めて『THE BOOK OF SECRETS』を聴き返すと、あれは決して通常のトラッドに戻ったのではなく、むしろ自然体で『THE MASK AND MIRROR』の世界を繰り広げた、言ってみれば生身のままで神を自分の体に取り込んだ作品であるということが分かる。そして、それを通じてきた彼女が今度また『THE MASK AND MIRROR』を再現したら、どれほど戦慄に近い緊迫感をリスナーに対して訴えられるか、その答えがdisc-2の"The Bonny Swans"にある。 (アマリリス緒方)

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