'05年秋にフランスのHOLY RECORDSから、2ndアルバム『THE SECOND RENAISSANCE』のリリースを控えた、福島の暗黒メタラーKADENZZAのYou Oshimaに話を聞いてきました。
日時:'05年8月20日 
場所:福島県いわき市 Zeitmesser Studio 2  
聞き手:タイジュ(Gothic Metal Gathering), 純生(It's So Easy/Gothic Metal Gathering)


---1stアルバム"Into The Oriental Phantasma"のリリース以降ご自身や周辺は変わりましたか?

かなり変わりました。 新しい出会いもたくさんありましたし、自分の音楽が日本のみならず、海外の人も聴いてくれているのだと判る様々な声も聞くことができました。 アルバムを出してからのこの2年間は本当にあっという間でしたね。 自分がかつて5年、10年前に夢見ていたことが今現実に目の前で起こっていると思うと信じがたいと思う反面、非常に充実した2年間でした。


----具体的に海外でのレスポンスをどのように受け取りましたか?

海外から直接メールがよく来ますね。 海外の雑誌・ウェヴジン等から結構な数のインタビュー依頼が来たりもしました。 残念ながら全部は対応しきれませんでしたが... 具体的には、フランス、スペイン、イタリア、ギリシャ、チェコ、ルーマニア等の雑誌・ウェヴジンからそのような依頼があったのはありがたいことでした。 また、HOLYの方で欧州のメタル雑誌でレビューされた記事のコピーを送ってくれたりもしました。 でも自分が一番実感できるのは聴いてくれた人が直接私にメールを送ってくれることです。 やっぱり、生の声が聞けることが何よりも嬉しく感じます。


----1stアルバムの国内の反応については満足してますか?

国内については、プロモーションの方法が限られてしまうので、その点は難しかったです。 以前から日本のメタルシーンには、私自身あまり多くを期待していませんでしたし... 通常、その手のバンドの場合だと、皆バンド単位で動いて、ライヴをやって、多くの人に聴いてもらって、着実にファンを増やしていく... という方法が一般的だと思いますが、私の場合はそういった手段がないわけで、売り込みの方法についてなかなか良い手段が見い出せなかった部分があります。 日本という国自体、メタルを取りあげてくれるメディアの絶対数も少ないため、メタルの情報を得るには、『Burrn!』といった商業誌や独自でやっている個人サイト、ファンジン等に頼るしかありません。 それでは結局限られた部分でしか効果が上げられない訳で、その点ではプロモーションには満足はいきませんでしたね。 ただ、聴いてくれた人達の反応については、感想をメールで送ってくれた方も大勢いたので、それが良い刺激になりました。


---2ndアルバム"The Second Renaissance"はいつごろから制作を始めましたか?

実際に機材を整えて開始したのは、'04年2月ぐらいからです。 曲作りもこのあたりからです。 基本的に機材オタクなので、毎回それらを入れ替えないと満足いかないのです。


---1stアルバムとはここが違う、ここを聴いて欲しいというのはありますか?

音楽的には前作を踏襲していると思いますが、自分のサイトでは『EVOLUTION』という言葉を使いました。 『進化』という言葉が相応しいのではないかと... 特に新しい試みをしたわけではなく、前作における自分の良い面、イマイチな面について色々な人からのフィードバックがあったので、そこから取捨選択してより良いところを伸ばしたいという気持ちがありました。 そこで『進化』という言葉を使ったのです。 前作は曲的にも実験的な色合いが強く、とっつきにくい部分があったと思うのですが、一方で自分にとってはそれを好きでやっていた訳です。 しかし、一歩間違えるとその実験性は、とんでもない自己満足になってしまいかねないので、それをより洗練させて聴かせるにはどうしたら良いかと考えました。 例えば曲のタイプで言えば、非常に速くてキャッチーでアグレシッヴな曲に関しては、もっと多くの人に分かりやすく素直に「あ、これかカッコいいじゃん!」と思えるような曲作り、アレンジを目指しました。 他にも例えば長めの曲で、実験色が強い曲でも単に「アバンギャルド」という一言で片づけられるのは本意ではないので「ではそこに人の耳を惹き付ける何か新しいものを挿入できないか?」といった感じで試行錯誤しました。 単にダラダラ長いだけでなく、そこにはもちろん起承転結、ストーリーも必要ですし、様々なサウンド・エフェクト等ある種飛び道具も必要です。 そう言った面をより聴きやすく洗練させないといけないな... という意識が作る前からあったので、長い曲でもなるべく飽きさず、より広いリスナーに聴いてもらえるよう心がけました。 曲自体はキャッチーなところはよりキャッチーに、ドラマチックなところはよりドラチックに、速い部分はより速く、メロディックな部分はよりメロディックに、複雑なパートはより複雑に... 要は各要素にメリハリをつけたということです。


---ジャケットのデザインについて教えて下さい。

ジャケットのアートワークはDavid Hoという、サンフランシスコ在住の中国系アメリカ人のイラストレーターに依頼しました。 たまたま彼のサイトを発見していろいろ見ていたら「感じる」ものがあったので早速彼にメールを出して「この絵を使いたい」と依頼したところ、彼は「いいよ!」という感じで快諾してくれました。


---彼は他のミュージシャンにも作品を提供していますか?

それほど知られた存在ではないようですが、メタル系ではフランスのゴシックメタル・バンドのTHE OLD DEAD TREEの『The Nameless Disease』を手掛けたのは彼ですね。 他には普通の雑誌... 経済誌や社会誌などの一般的なイラストも手掛けているようです。


---1stアルバムの般若のモチーフですとか、今回のアートワークもよく見ると漢字が各セルに入っているというようなモチーフで、そこはかとなく『和物』といいますか、オリエンタルなイメージを引き継いでいるのが解るのですが、決定的にこのアートワークを選んだきっかけは何ですか?

前作もそうでしたが、日本人であること、自分のアイデンティティ、そう言ったものを出したいという思いがあったのです。 見た感じ非常にスピリチュアルなものを感じますし、漢字を使っているせいで東洋的な味わいも出ています。 その点ではKADENZZAの音楽自体に違和感なくフィットしていると思います。


---例えば、音に触れたことがない人がレコード・ショップでジャケットを目にしショップの売り文句を読んだとしても、決定的に購入に至るきっかけとしてアートワークは重要であると思います。 特にオリエンタルなイメージは欧米の人々にはとても訴えかけるものがあるようですが、KADENZZAの作品についても「アートワークが音のイメージと外れない」というのはとても強みだと思います。 さらに言えば「ジャケ買いしてもズレのない」ところが良さだと思うのですが...

ジャケットというのは、音楽を聴く前に入ってくる情報の一番大きなものなので、非常に重要なものですよね? 極論を言えば、CDをひとつの商品として考える場合、中に入っている音楽は良くなければならない。 且つ、それを包むパッケージも音楽同様良くなければ、購入する人もそれを手に取ってレジに運ぶことはありません。 前作のジャケットも悪くはなかったと思いますが、前作については全ての製作をHOLY側で行ったので、自分の意図しない部分が無きにしもあらずだったのです。 決して不満足というわけではありませんけどね... 今回はジャケットに関しても自分が100%納得した絵を使いたかったし、且つ納得したレイアウトにしたかったので非常に吟味して選びました。 やはり一般的なデス・ブラック・ゴシックのジャンルの人達が使うアートワーク... そういうありきたりなジャケットにはしたくなかったのです。 となると、行き着くところがDavid Ho... 彼だったわけです。 やはり同じ東洋人ということもあり、最初からお互い受け入れやすいというのもありました。 彼もメタル系の音楽を好きらしいのですが、まあ、それほどマニアではないようなので、残念ながらKADENZZAは知らなかったようですが...(笑)


----今回のアルバムも一人で作られたわけですか?

前作同様ほとんどの作業を一人で行いましたが、ゲストとして4人が参加しています。 自分とは違う「新しい血」も欲しかったというのもありましたので...


----それでは、その4人について教えて下さい。

女性VoのYoko... 「友達の友達」みたいな感じでたまたま知り合うことができました。 彼女は過去に音楽大学で専門的にピアノや声楽を学んだという経緯があって、一度スタジオに入って歌ってもらったら非常に良い感じだったわけです。 そこで1曲"Utakata"に参加してもらいました。

Female VoiceのClaire... 彼女とも「友達の友達」のような感じで、偶然知り合いました。 彼女はイギリス人でいわき市の英語講師なんです。 話をしたら非常に「声がキュートでいいじゃない?」と思い、声に惚れてしまいまして... 丁度女性のナレーションをしてくれる人を捜していたので、最終的に4曲で彼女の声を使うことになりました。

ピアニストのFumiko... 日本人女性です。 彼女は仙台にいた時のバンド仲間です。 当時彼女はGalleria d'arteというプログレ・バンドのキーボード奏者でした。 私自身は一緒にバンドではやったことはなかったのですが、"Utakata"と"in the woods"、他の曲のピアノの一部など、全部で4曲くらいでピアノを弾いてもらいました。 それとピアノのアレンジも手伝ってもらいました。

Heeyan... 彼は私が仙台でバンド活動をしていた時のBLACK MARIAのドラマーです。 彼は元来ドラマーなので、他の楽器は演奏出来ないのですが、曲作りにおいては素晴らしい曲を創る人で、私のフェイバリット・コンポーザーの一人ですよ。 なので、元々彼がアイディアを出した曲をKADENZZA流にアレンジしてリメイクしたのが"The Abyss Stares At You"です。 ヴァイオリンのフレーズ作りやドラム、ベーシックな部分は彼が作りました。 作曲する上でのサポートという役割でしたね。


--それでは、ここから曲ごとにコメントを頂きたいと思います。まずはオープニングの"In My Own Voice"

これは曲というよりもSEですね。 よく昔のジャーマン・メタル系のバンドにあったような「1曲目は短い序曲」というような感じにはしたくなかったのです。
実は近年、日本のアニメーションに凝っていまして、押井守監督作品を数本見たのですが、日本人特有の「緻密さ」や「作品の作り込み」に非常に感銘を受けまして... まあ、映画自体も素晴らしいのですが...
その押井作品は、何故か始まりがヘリコプターが飛び去る音というのが定番で、その彼の様式にインスパイアされた部分があります。 それを自分なりに試行錯誤した結果、あのようになった訳ですが、その後に入る女性のナレーションも彼の映画から引用した部分があります。 まあ、押井作品を知らない人が聴いたら、いきなり爆発音が入ったり、その後入るかなり加工された女性の声にしても「これ何なのかな?」と思うかも知れませんが、何か不穏な雰囲気を感じ取ってもらえれば良いかと... ナレーションの内容も、その後続く曲、そしてアルバムを象徴する一節なので、押井作品を知っている人であれば、それが何かピンと来るはずですよ。


---Ghost In The Shell

言うまでもなく、押井作品を代表する映画のタイトルですね。 個人的には非常に感銘を受けた映画で、映画自体も原作の漫画もとても緻密で難解なのですが、あれは日本人にしか出来ない緻密さなのかなと... 同じ日本人としてこんなに凄いクリエーターがいたんだなという再発見がありましたし... あのような未来的なコンセプトや、ジャンル的には『ブレード・ランナー』等の流れを汲むサイバーパンク... そういった世界観に惹かれるものがありました。 それらにインスパイアされて歌詞を書いたわけです。 アルバムの実質1曲目ということもあり、前作同様速い曲をというリクエストも多かったので、アルバムの「つかみ」という意味でも疾走曲にしました。 2nd制作に取り掛かってごく初期に作った曲で、かなり大仰な作りになってます。 前作制作時には自分としては大仰にすることに対してある種のためらいもあったのですが、前作以降のリスナーの方々の考えを採り入れると、多くの人達がKADENZZAに求めているのはこういう曲なのかなというイメージの元に作った曲です。


---The Embers Of Reverie

この曲も疾走曲として作ったものです。 ブラストも入ってますが自分としては決してブラック・メタルとして作ったわけではありません。 ブラストというのはアレンジの一つであり、ブラストを使えばブラックというわけではありません。 新しい試みとしてデス声ではなくてクリーンヴォイスでメロディをちゃんと歌いました。 実は1stでもクリーンヴォイスで歌っていたのですが、曲中に埋もれてしまっていていまいち印象が薄くなってしまったようです。 また、自分が若いころ影響を受けた様式美系のRAINBOWやYngwie等に対する私なりの解釈として、まずギター・ソロがあり、それにかぶさるようなKeyソロがあるというのは80年代っぽさが出ているかと思います。 歌詞の部分についても、"Ghost In The Shell"の流れを汲むものです。


---The Abyss Stares At You

日本語にすると、「深淵はお前を見つめている」といった内容なんですが、この曲で一番最初に耳を惹くのはソロ・ヴァイオリンですよね。 冒頭から入るソロ・ヴァイオリン、それと重なり合っていくオーケストラ楽器... そのパートについてはさきほども話しましたが、作曲面をサポートしてくれたHeeyanという人物がアイディアとして出してくれたものを自分でアレンジした曲です。 この曲についてもクリーンヴォイスでのVoにトライしていますが、実はレコーディング間際に花粉症になってしまいまして、今振り返ってみると自分としてはいまいち納得できない部分がなきにしもあらずです。 またギター・ソロを全面に出しているアレンジにしており、そのギター・ソロについては私がごく初期に影響を受けたランディ・ローズを意識しています。


---Heeyanさんは完成された曲を聴いて、何か言ってましたか?

概ね納得していましたし、不満はないようです。 基本的には彼のアイディアに忠実ですが、エンディング部分については疾走してブラストになってますが、原曲はそうではなかったのです。 ちなみに彼はイタリアのプログレが好きで、その雰囲気が出てると思いますね。


---UTAKATA - remenbrance of mother -

日本語の女性Voとピアノを大幅に導入した前作にはなかったタイプの曲で、長い組曲構成です。 この曲も後半の変拍子の長いパート等にHeeyanのアイディアが生きている部分があります。


---手鞠のわらべ歌は既存の曲ですか? それとも創作の曲ですか?

創作の曲です。 自分は'90年代のフィメール・ゴシックにかなり影響を受けていまして、そういった「美と醜の対比」というような要素を自分でやりたかったというのがあります。 そうなると女性Voは必須になるわけですが、 そこで問題になるのが「日本人が英語で歌う」ということでした。 今までいろいろな人がいろいろな曲で試していますが、どうしても発音等に無理な部分があると感じることが多くて... であれば、自分が日本人であるというアイデンティティを活かして、敢えて日本語で歌ったら良いのではないか?という実験のひとつでもありました。 欧米人は日本語の歌など滅多に聴くことはないでしょうし、異文化の言葉なので、彼らにとってはかなり新鮮に聴こえるだろうという意味合いも含ませています。 また、歌を唄ってくれたYokoの力量があったからこそ出来たというのも少なからずありますね。

加えて、KADENZZAを聴いてくれた人が、KADENZZAの音楽をどのように捉えるのかということ... 多くの場合、例えばメロデスの一種であるとか、メロスピの一派だとか、変わり種のゴシックだとか、そういう風に、ある程度カテゴライズして捉えることが多いと思うのですが、自分としてはジャンルにはとらわれたくないという思いがあります。 アルバムとしてみると1、2曲目は速い曲で攻めるので、「あれ、これはメロデスの一種なのかな?」という風に思った人に対して、この曲が存在することによって「いや違うんだよ」と言いたかった... まあ、この曲はメタルという視点からすればかなり外れたところにある曲でしょうし、ある意味プログレに近いかも知れません。 なので、アルバムを曲順通りに聴いていくと、この曲について一瞬「あれ?」っと思うかもしれませんが、これもやはりKADENZZAの一つの要素... というように捉えてくれれば嬉しいかなと...


---In The Woods

この曲はピアノとオーケストラ・アレンジとClaireの語りのみで構成された曲なのですが、"Utakata"と次の曲"The Wolfoid"をつなぐという意味合いの曲です。 要は、"Utakata"というのは子守歌のようなお母さんについての曲なのですが、この曲以降、歌詞のについては一つのコンセプトがあるのです。 この曲自体は何を語っているかというと、誰もがよく知っている『赤ずきんちゃん』の話なのです。 昔々、何年もお母さんに会えない子がいて… という話から始まって、ある日やっとお母さんに会えるということになり、森を通ってお母さんに会いに行くという話をClaireに語ってもらったんです。 なので"Utakata"と"In The Woods"はある意味でセットになっているとも言えます。 やはりテーマ自体は「母への想い」という感じですね。 私自身自分の母を学生時代に亡くしていることもあり、お母さんに対する想いというのはどうしても自分の中で強くなっている部分があるのですよ。 なのでその想いをこれから続く赤ずきんちゃんの物語とオーバーラップさせて展開させたかったという意図があるのです。


---The Wolfoid

"Wofloid"というのは辞書にはない言葉です。 "wolf"... 「狼」という言葉と、"-iod"... アンドロイドとかバイオロイドとか、「〜のようなもの」という意味で、それを合わせて作った造語です。 意味としては、「狼のような人間」または「人間のような狼」と言うか、そういうタイトルなのです。 前曲"In The Woods"で、主人公の女の子が森で狼に会い、狼に「パンとチーズをちょうだい」と言われたけども、彼女は「お母さんにあげるのでダメなの」と断って、断られた狼はその後一足先に彼女のお母さんの家に行って、お母さんを殺してしまったという内容でした。 そしてストーリーはそこから始まっているのです。 狼を主人公にした内容の歌詞であり、曲自体もブルータルな感じに仕上がっていると思います。 この曲も中間部にかなり強引な展開がありますが、やはりこれも美と醜の対比の表現のひとつです。 この狼にしても、人間からは時にその攻撃的で危険な動物として捉えられがちですが、実際は彼ら自身も群で行動し一つのコミュニティを作って親子の関係もあるわけなんですよ。 つまり、ある側面から見れば非常に危険なものでも、もう一方の側面から見れば全く180度変わって見えるという意味合いもあります。


----Mother's Flesh - another story of little red riding hood -

メイン・タイトルは『お母さんの肉』、サブ・タイトルは『赤頭巾ちゃんの別の話』という意味です。 この曲は前曲の"Wolfoid"からの流れを引き継いで、主人公の女の子が、お母さんの家でお母さんになりすました狼と出会うシーンから始まります。 そこで、お母さんになりすました狼は、皆が知っているようにその女の子が喉が乾いたと言えば、ワインがあるから飲みなさいとか、女の子がお腹が空いたと言えば、お肉があるから食べなさい... と言うわけです。 ですが、実際にはそのワインというのは女の子のお母さんの血であり、食べたお肉はお母さんの人肉だった... というわけです。

曲自体も長く、Claireのナレーションも、ある時は狼、ある時は主人公の女の子、と使い分けているので、予め赤頭巾ちゃんの話を知っている人であれば、それなりに解ってくれるかなと... もしストーリーを知らない人だったとしても、激しい場面展開に加え、音像の面でもかなりエキセントリックなので、曲として聴いて楽しめる内容になっていると思います。

冒頭はブラック・メタルっぽいブラスト、及び変拍子で進行しますが、中間部にオーケストラ・パートがあったり、ジャジーなドラムに突然ヘヴィなギターリフが乗っかったり、インドネシアの『ガムラン』という民族楽器を意図的に入れたパートもあったりと、全く持って支離滅裂... まるで夢の世界?... かなり音楽的にも楽しめるのではないかと思います。 おそらく、メタルのフィールドでガムランなどという楽器を採り入れているバンドは他にはないのでは?... と思いますね。


---Redemption - epilogue -

前曲の流れを汲み、ほとんど一体の曲です。 "Redemption"というのは『償い』という意味ですが、 前曲"Mothere's Flesh"の後半部分で狼について歌っているパートがあり、暴虐な存在としての狼をクローズアップした歌詞なのですが、それに対する狼自身の償いという意味合いもあります。 "Mothers's Flesh"の最後で、狼は結局主人公の女の子も殺してしまいますが、アルバムの最後はそれとは正反対に静かに穏やかに終わりたいと思いがありまして... ピアノとちょっとしたヴァイオリン、オーケストラの楽器を少しかぶせた程度の短いエピローグとしての位置付けです。



---今後の予定について聞きたいのですが、その前にまずMISANTHROPEのアルバムにゲスト参加したそうですが。

2ndが完成して、マスターをHOLYに送った数週間後に、社長から「今、MISANTHROPEも新作のレコーディングしているんだけど、VoとかGソロとか何かやってくれないか?」という依頼がありました。 ま、MISANTHROPEは少なくともKADENZZAより名前を知られているから良いかな?と... 1曲"Supplication For God"という曲のVoとGソロをやりました。 実際にフランスに行ってレコーディングしたわけではなく、日本で自分で歌ったのをオーディオ・ファイル化してフランスに送って、フランスで最終的に社長のVoと自分のVoのデュエットというミックスになっています。 自分のVoについて言えば、直前までアルバムのレコーディングをしていたので、非常に喉のコンディションも良く、自分ではDESTRUCTIONのシュミーアみたいな感じで歌ったつもりなんですけどね... 実際、社長にはそんなことは言っていないのですが、「これシュミーアみたいで凄い!」と言ってましたね。


---"Supplication For God"の歌詞を読ませていただいたのですが、けっこう終末思想と言いますか、滅びの情景というか、そういう歌詞ですよね? 曲の最後で「神は我々を救えるのか...」という日本語が入りますが...

自分としては日本語は本当は入れたくなかったんですよ。 確かに自分のアルバムでは日本語歌詞を使いましたが、MISANTHROPEの曲で自分が日本語で何かやりたいとは全然思っていなかったんです。 でも、一度自分でVoを入れたラフ・ミックスを社長に聴かせたら、「日本語で何か入れた方が良い!」と言われまして... 「やれ!」と言われたからやったまでです(苦笑)。


---ライヴはやらないですよね?

よく聞かれるんですよ。「フランスでライヴをやらないか?」とか...


---もしライヴというものの定義を少し変えて、メタルの「伝統的なスタイルのライヴ」という形式でなければ、シーケンサやPC等を駆使してやる可能性というのも全くゼロではないですよね?

そう言ったテクノロジー面のサポートが得られるのであれば、やってやれないことはないとは思うのですが... 如何せん、まあ、事あるごとに言ってますが、「ヘヴィ・メタル」という音楽自体、伝統的に非常に『フィジカル』な音楽ジャンルな訳で、「ライヴやってなんぼ」の世界であることは疑う余地のない事実です。 私の眼から見ると、そこで演奏する人達も、それぞれギタリストなり、ベーシストなり、ヴォーカリストなり、それぞれの楽器に対しての拘りが強すぎて、最終的にプレイヤーとしてのみで終わってしまうケースが非常に多いのではないかと思います。 それはメジャーなバンドでもアマチュア・バンドでも同じことです。
やはり、ミュージシャンが楽器プレイヤーであるべき音楽が「ヘヴィ・メタル」なのかな?と... 謂わば、バンドで自ら楽器を使ってアグレッシヴでプリミティヴな感情を表現するという音楽が、広い意味で言えば「ロック」... そしてそれから派生した「ヘヴィ・メタル」というジャンルにも当てはまるのではないかと思うのですが、ただ、眼をメタル以外の世界に向ければ、例えばヒップホップとかテクノとか、そういったジャンルの人達というのは、それほど楽器プレイヤーとしての拘りがある訳ではないのですよ。 例えば、それらのジャンルの人は元来DJから入っている場合が多いので、曲作りの際も楽器演奏というより、まず自分でブレイク・ビーツを選んで、その上に適当に上物を乗っけていって、最終的にはミックスも自分でやる... という一人完結のケースが多いのです。 音楽をひとつの芸術作品... 絵画や彫刻、文学等と同義に考えるのであれば、一人完結が当たり前のことで、私としてはどちらかというと、そちらのほうに魅力を感じるというのがありますね。
ま、ステージでプレイすることは、自分も以前バンドでやっていた経験も長いので、スポットライトを浴びることの気持ちの良さも知ってはいます。 ですが、それはそれとして、今はそういったライヴよりも、メタル的見地からではない自己表現の手段として、曲を作り、演奏し、ミックスもやり、エンジニアリング面も全て自分一人でやる... という思いがあるので、特にメタルだからライヴをやらなければいけないとか、そういったことに対しての拘りは今は非常に少ないのですよ。


---メタル的な見地からの要望として「ライヴをやってくれ」というのが、大方の人達の意見だと思うのですが、メタル以外のジャンルに目を向けた場合、例えば、APHEX TWINのリチャード・D・ジェイムスのようにライヴの名の元にステージ上ではPCを初めとする機材をいじっているのみ、というような形態でもライヴだと言われればライヴということになりますよね。 これをKADENZZAに置き換えるならば、曲のメインはシーケンサや各種機材を合わせて再生し、自分の弾きたいところだけ楽器を弾いてみるとか、やりようによっては既成のメタル的ライヴの概念を壊すような表現すら可能なように思うのですが...

多分、メタルでそういうことをやっている人がいないのは、そもそもそのような形態のヘヴィメタルのライヴを受け入れる土壌がないからだと思いますよ。 例えば、日本で非常に人気のある、電気グルーヴやBOOM BOOM SATELITES、M-FLO等の非常にメジャーなバンドでも、あの人達というのはライヴは勿論やりますが、実際ライブで何をやっているかというと、必ずしも楽器を弾いているわけではないんですよね。 ステージ上に楽器と共にターンテーブルやノートPCを持ち込んで、あとは極端な例でいえばPCの中に入っているソフトウェア・シンセサイザーをステージ上でチョコチョコ調整して音を変えたり... というような作業、つまり(伝統的な)楽器自体が存在しない訳です。 それらはメタル畑の人達からすればかなり異様な世界かも知れませんが、あの手の音楽ジャンルはそもそもダンス音楽だからそれで良いのかも知れません。 メタルというフィジカルな音楽/ライヴの形態があっても良いとは思いますが、今やそう言った形態とは全く違うベクトルで動いているバンドのライヴの可能性もある訳で、一様に「ライブ、ライヴ!」と言われても、実のところ私としてはピンとこない部分があるのですよ。 「それって違うんじゃない?」って...(苦笑)


---まだ先だと思いますが、3rdについては考え始めてますか?

今は、今回新たに自宅にプライベート・スタジオを作ったので、曲を作っていく上で必要な新しい機材等を更新しています。 次作は機材的には一新された環境で作る予定なので、今までとはいろいろと勝手が違ったり... 慣れるまでには時間が掛かりそうです。
今後について言えば、KADENZZAとして3rdアルバムを作ることは勿論ですが、試してみたいことはいくつかあります。 まあ、メタルという音楽はこれまで長年やってきて自分自身に染みついてしまっている面があるので決して捨て切れないとは思うのですが、特にギタリストとして一丁やってやるかとか、ヴォーカリストとして他のバンドに入って歌いたい等の野望は全くないですね。
強いて言えば、映画のサウンドトラックのような音楽に対して以前から非常に興味があるので「一度やってみたいな」という思いはありますね。 個人的にはアグレッシヴな音楽も良いのですが、何かやはり風景が見えるような音楽が好きなんですよ。 音楽を聴いて頭の中に風景がイメージできるような... 映像が思い浮かぶような音楽が好きなのです。 そういう音楽を今後もし機会があればやってみたいというのが一つの夢ですね。


---ファンに向けてメッセージなどありましたら、お願いします。

前作を聴いてくれた人に対しては、今度の作品も是非聴いてもらいたいと思っています。 皆さんが抱いただろう前作でイマイチだと感じた部分がかなり払拭されているのではないかという手応えがありますので...
前作を聴く機会がなく、たまたまこの2ndからKADENZZAを知ってくれて聴いてくれた人に対しては、「日本人で、且つたった一人で海外のバンドと同じ土俵で勝負することさえ出来る」という、一つの新しい可能性を提示できれば良いと思います。 まあ、私の場合、まだまだこれからですけどね!
と言うのは、さっきの話と重なりますけども、普通音楽をやっている人というのは、ほとんどが「バンドマン」なのですよ。 バンド単位で動いて活動している人、自分達で曲を作ってそれをレコーディングしている人... そう言った人達に対しても、「一人でもやれば出来るんだ!」という新たな可能性を知ってもらえれば良いと思います。 なので、眼を単にメタルという一つのジャンルに縛らず、ちょっと引いて、広い視野で色々なジャンルを眺めてみれば、今までのメタルでは考えられなかったことを発見できると思います。
プレイヤーならプレイヤーで良いのですが、例えば自分がギター弾きならば、誰しも「自分のギタープレイのここがいいんだよ」と思う部分があると思うんです。 ヴォーカリストでも同じだと思います。 そう言ったプレイヤーの感情面までうまく汲み取って形に出来る人というのは、如何に有能なプロデューサーであれ、詰まるところ自分自身しかいないのではないかと... 例えば、他の人の手を介して自分の演奏を録音し、ミックスしたとしても、それはやはり他の人の手が加わっている限り、自分の意志に100%そぐうものではなくなってしまう... 100%そぐわせる為には、やっぱり自分自身でやるしかないのでは... 謂わば、自分がプレイヤーだったとしても、その良さを100%理解して、それを最もうまく汲み取れるプロデューサーは自分自身以外にはいないと思うのです。 まあ、プレイヤーが自分で全ての作業をするというのは非常に負担だとは思いますが、試してみる価値は十分あると思っています。 今は10年前とは音楽を取り巻く環境自体が全く違う... 『デジタル』という化け物が私達の生活を一変させたように、音楽制作の場にも『革命』を起こしていますから...

もうひとつ、先程ヒップホップやテクノ等の制作方法を取り入れた方が良いと言いましたが、別に自分自身がヒップホップやテクノに強い思い入れがあるわけではなくて、決してテクノを作ろうとは思ってはいないですよ。 要は、そういったジャンルの人達の音楽に対するアティテュードは、メタル畑にいる人達にも見習って欲しいと思いますし、自分でもそうあるべきだと思っています。
音楽は、今や「演奏技術」だけでなく、『テクノロジーを如何に上手く使えるか』をその「表現力」としてミュージシャンに求めている時代ですから...



連絡先 kadenzza@ht-net21.ne.jp
オフィシャル・サイト http://www.kadenzza.com