SOLOMAN'S SEAL / PENTANGLE
PENTANGLEの6thにしてオリジナル・ペンタングルとしては最後のアルバム。PENTANGLEというと、通好みのフォークの代表のような偏見を持たれ、フェアポート勢と比較するとメタル・ファンには聴いてもらえる機会が少ないような印象があるのですが、個人的には「フォークの代表」というよりも彼等自身がひとつのジャンルだと感じています。それほど、フォークという音楽のイメージにとどまらない独特の音楽を聴かせてくれるグループです。
不気味な印象すら与えるウッドベースで幕を開ける"Sally Free And Easy"に始まり、続く"The
Cherry Tree Carol", "The Snows"でのギター主体の美しい演奏とジャッキー・マクシーの素朴で暖かい歌声にホッと息をついたところで、油断するなとばかりに襲いかかってくる"High
Germany"。SEを一切使わずに音楽だけで戦場の光景を描写してしまうこの曲を、最近のD.THEATERに聴かせたい。
B面はホイッスルなども用いた落ち着いた印象の曲が続くのだが、ラストの"Lady
Of Carlisle"だけが何故かとても軽快な曲で、それはそれでいい曲なのだか「どうしてここにこの曲が?」と思わずにはいられない。このアルバムを最後にオリジナル・ペンタングルは消え、その後現在に至るまでPENTANGLEの名を受け継ぐバンドは存在するもののその音楽を完全に受け継ぐものは現れていない。そんな歴史的事実を考えながらこのアルバムを聴くと、また興味深いものがある。
PENTANGLEの代表作はやはり3rd, 4thになるのでしょうし、その意見には私も全面的に賛成なのですが、これも名盤だと思います。オリジナル・ペンタングルの作品中、何故かこの6thだけがCD化されていないのですが、「レーベルが違う」と言っても前5作がトランスアトランティックでこの6thがメジャーなワーナー。特にCD化出来ない理由もない筈なのだから、1日も早くCD化して欲しいものです。(Sawarenn)
FIRST UTTERANCE / COMUS
'71年リリースのイギリスのCOMUSの1st。マーキーの「ブリティッシュ・ロック集成」ではプログレ・サイケのページで紹介されているが、アルバム前半の印象は良質のフォーク。特に、女性Voの2曲目とクラシック・ギターで始まる3曲目は、妖しい雰囲気を漂わせながらも独特の湿った英国フォークの世界を堪能させてくれる。しかし、後半に進むと、発狂したようなヴァイオリンと断末魔の叫びのようなフルートがバトルを繰り広げ始め、先ほどまでは美しく奏でられていたギターは弦楽器から打楽器へと豹変したような音を奏で始める。民族音楽的というより呪術的世界。それでいて意味不明の音響ではなく「ブリティッシュ・ロック」の世界にとどまっている凄さ。病み付きになる。
私の場合、こうした書き込みを含めて、文章で誰かに音楽を紹介する時は、「たくさんの人に聴いて欲しい」と思って書くのが常なのだけれど、このアルバムに関しては「たくさんの人に」勧めたいとは思わないです。苦手な人からは「怖い」もしくは「壊れてる」の一言で片付けてしまわれそうだから;
でも、ハマる人は思いっきりハマると思います。(Sawarenn)
SEACHING FOR A LAND / NEW TROLLS
イタリアのNEW TROLLSが'72年にリリースした4th。リリースされた当時はスタジオ盤とライブ盤の2枚組だったのだが、現在は1枚のCDに収録されている(楽曲のカットは無いので安心。)まるでPENTANGLEのようなアコースティック・ギターとベースがからみあう上に、少しクセのある男性ヴォーカルが乗るスタイルの1曲目でまずあの"Concerto
Grosso"のイメージは崩壊する。さらにそこに重なるジャジーなピアノ。同じリフを繰り返すギターとは対照的に前衛的なピアノが楽曲の狂気色を高めてゆく。続く"Percival"は音数の少ないシンプルな演奏をバックにニコのハイ・トーン・ヴォーカルを堪能させてくれる1曲。しかし、シンプル、とは言っても彼等の場合、よく耳を澄まして聴くとドラムが不可解なリズムを刻んでいたりして、一筋縄ではいかないのだけれど。そんなプログレッシヴな世界に身をゆだねていると、やがて、ピアノで始まる4曲目"Once
That I Prayed"の美しさに息を呑む…ただでさえ美しいメロディがフルートやハープシコードまで加わって壮大な芸術作品にまで高められ、そしてまたはかなげなピアノの音色で締めくくられるこの曲の美しさは、あのLOCANDA
DELLE FATEにも匹敵するものがある。
アコースティックな楽器の魅力を堪能させてくれるスタジオ盤に続くライブ盤は、ハードな'70年代ロック。某バンドの某有名曲にそっくりな曲には笑ったが(さて、パ○ったのはどっちだろう?)贅肉を削ぎ落とし鍛えぬかれたような演奏が嬉しい。こういう音楽の魅力の前にはどんな言葉も意味を持たない。聴いて、踊って、楽しむだけ。…そしてラストを締めくくるのは、聴いているだけでゴシック様式の教会にいるような気分になれるイントロから狂気のバカテク・プログレへと自然に(これが怖い)展開してゆく大作"Lying
Here"。もう、何も言うことはない。
「NEW TROLLSは『CONCERTO GROSSO』と『UT』だけでいいよ」以前、そんな言葉を耳にし、その言葉を鵜呑みにしてその2枚だけで彼等を理解したつもりでいたが、とんでもない誤解だった。クラシカルなだけが彼等の魅力じゃない。美しさとハードさと狂気とを兼ね備えた独自の世界。こんな魅力的なアルバムがあったのを知らずにいたことが恥ずかしい。全アルバム揃えるのは大変かもしれないが(多いからな…;)他のアルバムもこれから是非聴いてみたいと思う。(Sawarenn)