MONKEY BUSINESS / JOHN WETTON + RICHARD PALMER-JAMES
 クリムゾンの作詞担当とのコラボレーション。というと聞こえがいいがデモ音源どころか本来人様に聴かせるための音ではないとんでもないカジュアルで断片的な録音(誰それの家でマイク1本で録りましたってやつ…普通こういうのは門外不出じゃないのか?)が大部分を占め、俗に言うマニア向けなのですが、曲作りの雰囲気が伝わってきてすごく面白い(はい、マニアと呼んで下さって結構です)。JWが一言二言説明した後、ピアノなりギターなりを弾きながらメロディだけを歌って聞かせる。ほとんど鼻歌。"Starless""Easy Money"も、歌える部分はこうやって先にほのぼのと出来ていて、後からスキゾイドな人たちがあんな風にしてしまったんだということがよくわかる。RPJのクレジットが"enthusiasm"(JWが多分もらったばかりの歌詞をつっかえながら歌っているのを横からおだてたり、一緒に歌ってあげたり)とか、"cups of tea"(かちゃかちゃした音が入ってるが、多分単に横でお茶を飲んでいるだけ)というアヴァンギャルドな?ものもあり、冬の晩、暖炉とピアノのある部屋で2人でゆったりとでも熱心に音楽を作っている幸せな情景が浮かんでくる。25年間こうやって断続的に一緒に音楽を作ってくれる人がいるってのもうらやましい話ではないか。Bill Brufordがドラムを入れている比較的ちゃんとしたの("Good Ship Enterprise"のインスト部分はすごく良い)や、紆余曲折を経て元の形に近くなったともいえる"5分間Starless"(97年録音。「叙情が壊れていく」完全版を刷り込まれている人には物足りないに違いないのだが、ABWHのAW作品に似たロマンチックな雰囲気で個人的にはとっても良い)も収録。舞台裏は見せるもんじゃないという意見もあるでしょうが、私はこの寄せ集めを聴けて暖まって幸せな気分になりました。  (Kyon Wetton)


SINISTER / JOHN WETTON
 JWは私にとって、セッション作やライヴ音源は無視しても新譜と来日公演は無条件でチェックする「腐れ縁アーティスト」(のひとり)だった(過去完了)から、去年暮れの日本先行発売だった新譜『WELCOME TO HEAVEN』もその時に聴いた。のですが「どつぼな正しい産業なのに、なぜか聴けない。U2しか聴けない体になっちゃったかな」と深く考えず放り出したまま、埃もかぶらないくらい下の方にうずもれていたのを、ライヴの予習(結局このアルバムからろくにやらなかったのでかなり無意味だった)のため仕方なく聴いちゃったのでした。それで2度と聴く気になれなかった理由が音だということがわかったのです。何よりしょっぱなのサバイバーもどきの曲が分離が悪いというのかな、ぐちゃっとしてて、ヴォーカルは埋もれちゃってるしギターのキレはないし、一言で言ってキタナイ。何とか聴けるのはサウンドスケープな"E-scape"(RF+IM+JWによるインスト。他の曲とのギャップがすごすぎて良し悪しすらわからないが、意味深さを醸し出す効果ありまくり)と、他の曲とドラマーが違う(「ビゾネさん」ことGreg Bisonetteである。スタジオが違うことも関係してるかも)"Another Twist Of The Knife"くらいで、もぅ何でこう最高のヴォーカルを最悪の音にして平気なのってひとり悶えて再び放り出し。10年位前のチャートを狙ったようなあまりに耳当たりが良くて吐き気を覚える表面的なパワーバラードも気をそいでくれた。という事情があったところにそのアルバムの輸入盤がエンジニア違いだという。店頭でそう書いておいてくれよと八つ当たりしつつ買いに走ったのがこれです。
 タイトル変更に伴い本人のメッセージもマイナーチェンジされ、彼が左利きであることが初めて判明(でも"this is the right stuff"って、その駄洒落は"Caught In The Crossfire"の使い回しか)。レーベルはJWバンドでkeyを務めるMartin Orfordがいた(いる?)IQGiant Electric Peaという立派なインディーズです。マスタリング担当が替わっただけのはずなのに印象の違いに唖然、今更ですがこれは良い。むしろ玉石混交だった(とはいえ私にとって一番大切な作品であることに変わりはない)"Voice Mail"や異様に暗かった(と一言で片付けちゃいけないのはわかってる)"Arkangel"より、神々しさはなくても粒揃いで(除"E-scape")聴きやすいかも。いやもう、個人的レベルではヴォーカルが聴こえるようになったんで(除"E-scape")文句ないです。すみません、私、完全に平衡感覚失ってます。   (Kyon Wetton)


WELCOME TO HEAVEN / JOHN WETTON
 『SINISTER』にはないボーナストラックが2曲あるので書いておきます。片方は間延びさせてルカサーを省くという、ヴォーカル以外のいい所をことごとく取り去った"Time And Space"。オリジナルは"Voice Mail"収録の私の大好きな幽霊ものなのですが、共作者のJim Peterikと再び仕事した勢いでよせばいいのにいじっちゃっただけなんじゃないかと。
 問題曲は"Love Is"で、ひどい音をしているもののイントロのピアノとか超かっこよくて大袈裟で良いのです。以下は全く個人的な解釈ですが、これがアルバムの中に居場所を見つけられなかったのは、"E-scape"に追い出されたから…ではなくて、詞がわかりやすすぎるせいじゃなかろうか。
 音楽をろくに聴こうとしない連中に限って中傷を垂れ流す一方で、彼には昔の栄光を利用しようとする誘いが引きもきらないだろうし、それに心動かされる自分がいることもわかっているのでしょう。できることならその手に乗せられて再結成でも何でもしてしまいたい…するとまた節操がないだの金目当てだのとはやされるだろうことも。何を言われても気にするわけではないけど、音楽ってのは君らが考えてるような安易で一時的なものじゃないんだ。それがわかってから言ってみろよ、と。
 私、これを聞いてわかっちゃったんだ。この人の書く詞の大半は「偽装ラヴソング」で、音楽仲間やファンへの呼びかけとして解釈すると凄く意味が通る。この曲は偽装の出来がいまいちだと本人も思って、でもこの曲調にこれ以上あいまいな表現は合わないということであえてそのままにしたのではないか…。
 そのつもりで他の曲も改めて聴くとかなり辛辣。本人が「自伝的」と言うのが腑に落ちた。我ながら暴走していると思うものの、"pain"=John Payne(現在ASIAを名乗っているバンドのVo)と読み替えてにやにやしたりしている。 (Kyon Wetton)



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